「ベクトル・空間」を終えて

6 /2 (土)の「ベクトルと空間座標」、2コマを終わりました.あまり上手に講義できたとも思えないが、アンケートを読むと、どうやら「 見当はずれ 」の勉強をしていたと実感していることがヒシヒシと伝わってきます.その悲惨に涙が出ます.
「 目からウロコが3枚落ちた!」と書いてくれた生徒さん.今から本気でやれば間に合いますよ.なぜかというと、今日の君はもう昨日の君ではない.何かを見てしまった君は、もはや以前の君にはもどれないからです.そして、それを目指してひた走るしかないからです.みんなそうして育つのです.
どうしてこんなことになってしまったのか.それを簡単に説明します.

ハナシは古く、1945年にさかのぼります.戦争に負けた日本はアメリカ軍の占領統治下におかれ、すべての教育が否定されました.数学も例外ではありません.聞くところでは、等比数列は利息の計算から入った、というからアメリカの、生活に密着した数学であったのだろうと思います.
そして、1951年、戦後初めての日本の数学の教科書 「 解析I、解析II、幾何 」が使われるのですが、これもまだGHQの検閲の中で編集作業が行われたようです.
そして、関係者の「 坂の上の雲 」を目指す努力はエイエイと続きます.1956年、「 数I. 数II, 数III 」と改訂されます. 私がこれをよく覚えているのは、私たちがこの課程の最後の生徒であったからです.
1963年、新課程として「 数I. 数IIB, 数III」 (前半) と改訂されました.今になって思うと、これが「登ってきた坂の頂点 」だったような気がします.
1973年、指導要領は「 数I. 数IIB, 数III 」(後半) と改訂される.ここから「 ほころび 」が始まった、と私は見ます.というのは、このときから「 行列 と1次変換 」が「数IIB 」に入ってきた.そのために「 数IIB 」の微積分の前に入っていた「 無限級数 」が「 数III 」に追いやられ、「数IIB 」の定積分が定義できなくなってしまったのです.
そして、1982年、上記の瑕疵をかかえたまま、「数 I、代数幾何、基礎解析、微積分、確率・統計」の5本の柱による本格的な高校数学が完成するのです.しかし、これでは高校生の3年間で時間が足りない.そうなるともう「 タダの雲 」というか「夢」でしかありません.
それに「 ゆとり教育 」というナマ暖かい風も吹いて1994年の改訂では「積年のウラミを晴らす」かのように、本当に粉々に壊してしまいました
どうしたかというと、まず、難しいものは除くか「 数II 」か「 数III 」に送ってしまった.だから、「 数 I 」などはカケラだけ体系化の真逆をやってしまったのです.それが現行のカリキュラムの原型である「数I、数A、数II、数B、数III、数C」です.

ではどうするか.あの「 雲 」を見た「坂の上」にもどるか.それには困難が2つある
(i)  まず、新課程になったトタン、旧課程のものは廃棄されて、買うこともできない
(ii) 今の生徒さんがそれをそのまま受けいれる下地がない
ということに行きあたった.そういうことならすべてを基本から「べた書き」に書き起こすしかないだろう.すべてはそこからは始まった.
それに私も、もう爺さんだからどこまでやれるかはわからない.しかし、誰かがやらなければ、若者の置かれた状況はあまりに悲惨だ
先日、チューターさんに「生徒さんのモチベーションを上げるにはどうすればよいか」と聞かれたが、「好きとかキライとかの問題ではない」のです.その科目と「抜き差しならない関係」ができなければ本気にはなれないものです.冒頭に述べた「ウロコ3枚」の人はそういうことに出会ってしまったのだと思います.
もう1学期の後半です.そういう目で君の1学期を検証してみてはいかがですか.

「ベクトル・空間」を終えて」への3件のフィードバック

  1. もう20年近く前に諸橋先生の授業に出席して、「目から鱗」の記憶が今でもあります。何の縁か、現在、海外で高校数学と物理の授業をしておりますが、実家の本棚をひっくり返し、「理系数学の原点」を参考にさせて頂いています。出来れば翻訳してこちらで出版したいくらいです。拝見するところ絶版になってしまっているようですが、理系の学生には重要な本です。ぜひ再出版して頂きたいと私は思います。私はほとんどの教科書、参考書類は高校、大学ともに古本屋さんへ持って行ってしまいましたが、「理系数学の原点」は残していました。今の高校生、大学生にとっても、後々まで必ず役に立つ本だと思います。

    • 何だか遅くなって失礼しました.
      20年前、とういうと私も若かったですね.
      今、河合塾横浜校で「イマイチの人全員集合」というイベントをやっています.
      テキストは毎回100~150ページにもなりますが、「講義シリーズ」や「原点シリーズ」を自分でパソコンを打って書き直したものです.これはいい本ですよ.まあ罪滅ぼしのようなものです.
      あなたのように評価してくださる人がいると、本当にヤル気が出てきます.
      ありがとうございます.

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